大畑亮介

日本で無痛分娩が普及しない理由としては「産科麻酔科医が不足」「危険だというイメージがある」「健康保険が効かない(自費診療)」「24時間体制の病院が少ないため、どうしても計画出産になりがち」などが挙げられています。(医療・介護情報メディア「リトリート」編集部 大畑亮介)

日本で無痛分娩が普及しない理由

日本で無痛分娩が普及しない理由として、以下の点が挙げられています。

  1. 健康保険が効かない
  2. 危険だと誤解されている。
  3. 病院側の体制の問題~産科麻酔科医が不足している。
  4. 日本では無痛分娩をすると、計画出産になってしまう

それぞれの理由について、以下、考えていきましょう。

理由1:保険が効かない

日本では、無痛分娩に健康保険が適用されません。自費診療となります。つまり費用を全額自分で負担しなければなりません。

内訳は、人件費や管理費

無痛分娩では、「産科麻酔科医」が分娩室に常駐するのが理想です。それによって、予期しない事態にもしっかり対応することが可能となります。このため、人件費や管理費がかかるのです。

韓国の例

韓国では、無痛分娩が健康保険の対象になってから、急速に普及しました。現在では、大半の大病院で無痛分娩を提供しているといいます。

理由2:「危険」というイメージ

日本では、無痛分娩が危険だと考えている人が多いようです。無痛分娩に詳しい専門家の多くは「誤解されている部分が多い」と指摘します。

日本で無痛分娩が危険と考えられている理由の一つとして、「陣痛が弱まるから」というのがあります。すなわち、以下のような理由です。

  • 陣痛が弱まるため、子宮伸縮薬の使用頻度が多くなる。
  • 帝王切開や器械分娩の割合が高くなり、危険度が高くなる。

これらの理由は、技術が発達する以前は妥当だったが、当たはまらないという専門家が多いです。

帝王切開になる確率は低下

高濃度の局所麻酔薬を使用していたころは、確かに子宮収縮が弱まり、十分にいきむことができずに、帝王切開にする頻度が多くなるかも知れないと議論になりました。

しかし、現在では、低濃度の局所麻酔薬を選択することで、その頻度が増加しないことが明らかになっています。

器械分娩との関係

器械分娩については、骨盤の筋肉が緩まることによって、赤ちゃんの頭の回旋異常につながり、「鉗子(かんし)」「吸引」などに頼る頻度が多くなる可能性もあります。しかし、それが赤ちゃんの発育などに影響することは、現在では、あまり考えられないといいます。

理由3:病院側の体制の問題

産科麻酔医の不足

無痛分娩が普及しない理由として、産科麻酔医の不足が挙げられます。

安全に無痛分娩をするには、専門的な知識とスキルを持った産科麻酔医の存在が重要になります。以前は、産科医が自ら無痛分娩を提供する施設も多かったようです。しかし、近年は、求められる知識や技術が高度になったこたこともあり、普通に産婦人科医になる勉強をしてきただけでは、無痛分娩のスキルは身に付かないといいます。

日本では、産科麻酔医の仕事だけに従事している医師は少ないようです。総合周産期母子医療センター(全国に100施設)でも、産科麻酔科医が常駐しているセンターは数か所くらいだと言われています。

欧米の無痛分娩の体制

アメリカでは、「オープンシステム」「セミオープンシステム」という仕組みがあります。これにより、クリニックで検診しても、分娩管理は大きな病院で行います。

そうすることで、万が一の緊急事態が生じても、速やかな対処が可能になります。また、産婦人科医も常駐しているので、24時間いつでも無痛分娩に対応できます。

大きい病院を選ぶ

なお、出産は、できれば何があっても対処できる大きい病院でやることが望ましいといえます。無痛分娩を希望するなら、実績と経験のある医師がいる施設で受けるようにしたいですね。

理由4:「計画出産」になってしまう

日本では無痛分娩をすると、計画出産になってしまうことが多いです。これが、無痛分娩の普及の障害になっていると言われます。産婦人科医自体が少ないため、24時間対応できる施設が限られてしまいます。その結果として、計画出産という選択肢しかなくなるのです。

初産で計画出産をすると、帝王切開の確率が高くなる

初産で陣痛を誘発すると、難産になりやすいです。その結果、帝王切開の確率が高くなるといいます。このため、初産婦は医学的な理由がない限り、計画出産を避けるべきだという専門家が多いです。

しかし、無痛分娩で自然分娩という方式を実現するためには、病院側が「24時間365日」の体制になっていることが必要となります。

助産婦さん

無痛分娩の普及度には、助産婦さんたちの考え方も関係していると言われています。助産婦は分娩の痛みを自分たちのサポートにより軽減させるのが仕事だという意識が強いようです。

このため、無痛分娩が増えると自分たちの仕事はどうなるのか、という疑問を持つ人もいるようです。自然分娩のほうがいいと考えている助産師が多いようです。

神奈川県が助産師を対象に、無痛分娩への意識調査をしました。その結果、無痛分娩に反対する「理由」は、妊婦の回答とほとんど同じだったといいます。

重要度が増す?

しかし、助産師さんの役割は、妊婦に寄り添って精神的にサポートしつつ、分娩介助を行うことです。無痛分娩は、分娩経過が自然分娩とは異なり、母体や胎児の状態に注意すべきことも多いので、むしろ助産婦の役割が重要になるという指摘もあります。かえって、やりがいがあるかも知れません。